あやとり
思い切ったように直哉は部屋から立ち去る。
栗木と共に出て行ってしまった。
その後ろ姿は、二人を繋いでいた糸が途切れるような音を心に響かせていた。
どうして、直哉と私までこんな想いをしているのだろう。
心の中にあの嫌な自分が姿を現し、心を占めていく。
「姉さん」
優ちゃんの顔をまっすぐに見据え、できる限りの微笑みを作って見せた。
「……妊婦さんなんだから、気をつけなくちゃ」
優ちゃんの表情が変わる。
「え?」
甲斐君が優ちゃんの方に視線を向ける。
「雅!」
彼女の目に力が入る。
下唇を噛んでいるその姿は、こみ上げて来る感情を隠せないことを顕わにしている。
彼女が私には初めて見せる顔だ。
そうだよ。
誰にでもいい顔しないで、最初からそういう顔を見せておけば、あの栗木って人も、こんなことしなかっただろうに。
その一瞬はそこまで思った。
「誰の子かは知らないけど」
言い残して玄関を出る。
ドアを閉めた後、意に反して涙が零れ落ちてきた。
ぽろり、ぽろりと頬をつたう。
自分の体が涙という水分で作り上げられているような気がした。
それなら、いっそこのまま泣き続け、自分を消してしまいたかった。