あやとり

思い切ったように直哉は部屋から立ち去る。

栗木と共に出て行ってしまった。

その後ろ姿は、二人を繋いでいた糸が途切れるような音を心に響かせていた。

どうして、直哉と私までこんな想いをしているのだろう。

心の中にあの嫌な自分が姿を現し、心を占めていく。

「姉さん」

優ちゃんの顔をまっすぐに見据え、できる限りの微笑みを作って見せた。

「……妊婦さんなんだから、気をつけなくちゃ」

優ちゃんの表情が変わる。

「え?」

甲斐君が優ちゃんの方に視線を向ける。

「雅!」

彼女の目に力が入る。

下唇を噛んでいるその姿は、こみ上げて来る感情を隠せないことを顕わにしている。

彼女が私には初めて見せる顔だ。

そうだよ。

誰にでもいい顔しないで、最初からそういう顔を見せておけば、あの栗木って人も、こんなことしなかっただろうに。

その一瞬はそこまで思った。

「誰の子かは知らないけど」

言い残して玄関を出る。

ドアを閉めた後、意に反して涙が零れ落ちてきた。

ぽろり、ぽろりと頬をつたう。

自分の体が涙という水分で作り上げられているような気がした。

それなら、いっそこのまま泣き続け、自分を消してしまいたかった。
< 151 / 212 >

この作品をシェア

pagetop