あやとり

思えば、優ちゃんが私に頼みごとをしたのは、妊娠のことを誰にも言わないで欲しいといったことだけだったかもしれない。

それをきっと、いちばん知られたくない相手の前で、私は言ってしまったのだろう。

甲斐君は昨日の私の態度をどう思ったのだろう。

昨晩のことがなければ、クラスメイトとして彼を東京へ送り出すことが出来たはずなのに。

ただ、私に甲斐君の待つ場所へ行く勇気をくれていたのは、今日の彼の声と口調だった。

怒っているようでもなく、呆れているようでもなく、大切な何かを伝えたいという思いが、発せられる言葉の音の中に込められていたのを感じられた。

言葉とは本来、このように使うべきなのだと思ってしまうほど、何かが伝わってきた。



< 156 / 212 >

この作品をシェア

pagetop