あやとり
「頼みがあるんだ」
「なに?」
「ユウの様子、ほんとうの様子を時々俺に連絡して欲しいんだ」
甲斐君の頼みが私にしか出来ないことだと理解していた。
「ユウは絶対、大丈夫としか答えてくれない。でも、あの栗木って男もさ、俺が居なけりゃ、また、わかんねぇだろ?俺、蚊帳の外にはなりたくないから。こんなこと、中原にしか頼めない」
彼の眼差しはまっすぐで真剣だった。
変なの、私。
優ちゃんよりずっと前に甲斐君とは出会っていたのに。
優ちゃんのことがなければ、彼のことなんて気にも留めないままだったかもしれないのに。
今、なんでこんなに苦しかったりしているんだろう。
バカみたいだなぁ。
断れるはずもない。
自分が抱いてしまった彼への想いを認めながら、私は頷いた。
「ありがとうな」
安心したように彼が微笑んだ。
それは甲斐君が私にくれた微笑みの中で、一番素敵だと思った。
午後三時三十二分、彼は東京へと行ってしまった。