あやとり
ちょっとした瞬間に白い部屋の壁が蘇る。
母のため息、帰っていく姿、置いてきぼりの私、居なくてもいい私。
今、母のテンションを上げているのは、私ではなく、直哉だ。
そして自覚があるのか、ないのか、母からの食事の誘いを直哉は決して断らない。
「雅はまだ高校生だから、親も心配なんだよ。俺も心配してもらいたくないしね」
直哉なりの気遣いをいいようにして、母は私たちを自分の監視下に置き、満足しているようにも感じていたから、面白くなかった。
結局、この日の夕食は中華から母の得意とするミートローフとクラムチャウダー、そしてシーザーサラダとなってしまった。
ちょっとした洋食屋気取りで、得意げにテーブルに料理を並べる母は少女のように浮かれていた。
母は直哉に対して、質問を繰り広げる。
直哉は上手にかわし、話題を変えている。
それがあまりにも自然なので、母は気付いていないかもしれないが、直哉はほとんど自分のことを話していない。
時折、秘密があって故意的にかわしているのではないのかもしれないとさえ思えてくる。