あやとり
甲斐君の後ろ姿を見送った後、優ちゃんは私に気付くことなく、アパートの階段を駆け上がっていった。
優ちゃんの部屋のドアが開いて、閉じた。
私は電信柱から離れ、さっきまで二人が立っていた位置まで行った。
空の色が薄暗く、既に甲斐君の後ろ姿は消えていた。
階段を一段ずつ踏みしめるように上り、優ちゃんの部屋の前に立つ。
チャイムを押してみた。
中から優ちゃんの声が聴こえた。
「雅」
名乗るとすぐにドアは開いた。
「いらっしゃい。なんだか、久しぶりだね。みぃちゃんの顔見るの」
優ちゃんの声はいつ聴いても優しげだ。
「ねぇ、今、下で優ちゃんと話していたのって……」
言い終わらないうちに優ちゃんは「今日は泊まっていけるの?」と訊いてきた。