あやとり


甲斐君の後ろ姿を見送った後、優ちゃんは私に気付くことなく、アパートの階段を駆け上がっていった。

優ちゃんの部屋のドアが開いて、閉じた。

私は電信柱から離れ、さっきまで二人が立っていた位置まで行った。

空の色が薄暗く、既に甲斐君の後ろ姿は消えていた。

階段を一段ずつ踏みしめるように上り、優ちゃんの部屋の前に立つ。

チャイムを押してみた。

中から優ちゃんの声が聴こえた。

「雅」

名乗るとすぐにドアは開いた。

「いらっしゃい。なんだか、久しぶりだね。みぃちゃんの顔見るの」

優ちゃんの声はいつ聴いても優しげだ。

「ねぇ、今、下で優ちゃんと話していたのって……」

言い終わらないうちに優ちゃんは「今日は泊まっていけるの?」と訊いてきた。


< 34 / 212 >

この作品をシェア

pagetop