あやとり
優ちゃんは真っ赤な顔をしていた。
私の言葉は、優ちゃんの耳に届いていたはずだ。
彼女は両手で自分の腰骨のところを何回も上下に擦っている。
明らかに動揺しているようだった。
「うん。また、友だちのところに泊めてもらう話にはなっているんだけれどね」
「そっか。まぁそのほうがいいかもね」
苦笑いをしながら、ハンガーを手渡してくれた。
「甲斐君だよね?」
「え?」
「さっき、下で優ちゃんと話してたの」
「あー、甲斐君て言うんだ?みぃちゃんの知ってる子?」
「同じクラスだよ」
「そうなの?」
「うん。なんか優ちゃんと親しそうだったね」
「あー、前にね。予備校でちょっとアルバイトしたときの生徒さん」
「予備校でアルバイト?」
直感で嘘をついていると思った。
「ちょっとね、買いたいものがあったのと、結婚式のお呼ばれが重なっちゃって。出費が続いたから」
舌を出して見せているが、いつもの優ちゃんらしくない。
こんな優ちゃんを初めて見た。
答えに困っているようにも見えた。
さっきのあの光景は、自分の姉がひとりの女の人に見えてきて複雑な心境だった。
しかもそう見せた相手が私と同じ高校生で、同じクラスの人間だということが、私の思考と想像をより複雑な色にしていった。
まさか、でしょう。
いくらなんでもこの優ちゃんが、あの甲斐君と、なんてね。