あやとり
視線は自然と彼の指先に向かう。
あの指で優ちゃんの鼻を左右にこうキュッキュッと動かしていたんだよね……。
あの夕暮れ時のシーンが再び蘇ってきて、甲斐君の横顔を見ながらなんだか照れてしまった。
「なにやっているの?」
すぐ横に千春が立っていたことに彼女の声で気付き、驚く。
「さっきから窓のほう見て鼻摘んだりして、変なの」
しっかり見られていたようで、返事に困った。
そして昨日の優ちゃんの胸のうちが少しだけ解ったような気がしてそんな自分が可笑しかった。
「今日さ、帰り付き合ってくれる?服、買いたいんだ」
「あ、ごめん。今日はバイト」
千春の顔からすっと笑みが消えたように感じた次の瞬間、千春はまた微笑んでいた。
私はこういう、自分以外の人の表情が切り替わる瞬間に敏感になっている。
きっと子供の頃からの習慣になっている。
「そっか。バイトならだめだよね。じゃあ、いいよ」