あやとり
「みぃちゃんの顔も見れたことし、帰るね」
優ちゃんはバッグを肩に掛け、私の横に来る。
「ごめん、もうわたしはお役に立てないみたい」
私の横で、彼女は小声で言った。
「お父さん、お母さん、お邪魔しました」
優ちゃんは両親に聴こえるようにいつもより大きめの声で言った後、リビングを出て玄関に向かった。
父は優ちゃんの声には反応せず、母は小さな声で「気を付けて」とだけ言った。
「優ちゃん、ほんとうに帰るの?」
私の問いに優ちゃんは靴を履きながら寂しげな声で言った。
「もう、ここへはあまり帰ってこられないかもしれない。ごめんね。でも、これからはみぃちゃんも自分で切り抜けられるようにならなきゃね」
振り返りもせず、玄関のドアを開けて優ちゃんは出て行った。
これからは、自分で?
優ちゃんが私の手を振り解いて背を向けたように思った。
自分が道端に捨てられた子猫になった気かして、閉じていく玄関のドアを呆然と見つめていた。