あやとり

「バイト代が出たから、ケーキをお土産に持っていこうと思ってるの。自分の好きなケーキを選んでね」

甲斐君も一緒に店内に入るように促す。

わざと優ちゃんが子供のころから苦手だったモンブランを指し「優ちゃんはこれでいいかな」と、言ってみる。

「甲斐君はどれにするの?」

「俺、チーズケーキでいいや。モンブランはやめたほうがいいんじゃない?ユウは食べられないよ、それ」

かかってきた。

人が自分の思惑通りの行動をするのを見るのは快感に近いものがあるかもしれないと思う。

「あ、そうだった。何が好きだったかなぁ」

甲斐君は迷わず、ブルーベリーレアチーズケーキを指差した。

堂々たるもので、照れるような顔ひとつしない。

「あぁ、そうだね。レアチーズ好きだったかも」

斜め後ろで、甲斐君とのやりとりを見ていた千春は、複雑な表情をしている。

相手の好きなケーキを迷わず選べるなんて、どのくらいの時間を二人で過ごしてきたかを物語っているようで、見ているほうが気恥ずかしいくらいだ。

千春には可哀想だけれど、優ちゃんと甲斐君はかなり親しいのだろうと思われた。


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