あやとり

この三人で並んで歩くのはなんとも会話が続かない。

千春が気を遣って甲斐君に話しかけているのが、痛々しいくらいだ。

甲斐君は話を聞いてはいるものの、視線がいつも空や建物に向けられているので、千春は余計に空しくなっているのかもしれない。

私も何か話題をと、先日テレビで観た某ドラマのことを話し出すと「あ、それ、俺も観てる」と、意外にもその話には甲斐君が乗ってきたりするので、さらに千春の表情が曇っていくのだ。


アパートの前まで来て、千春と甲斐君に「もう帰ってきているか、先に見てくる」と告げ、一人先にアパートの階段を駆け上がった。

千春に甲斐君と二人の時間を少しでも作ってあげておかないと、彼女の機嫌を損ねてしまうかもしれない。

チャイムを鳴らすと、優ちゃんの声が聴こえた。


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