あやとり
「それって変ですよね」
妙に落ち着いた口調で千春が指摘する。
「え?」
「だって、家庭教師の家で教えてもうなんて、普通しないですよ。ねぇ、雅」
同意を求められて、肩を竦めて見せる。
「普通と変の境界線なんて、みんな適当なものよ」
優ちゃんがまたもさらっと言って微笑んでいる。
甲斐君は開いていた本を閉じ、立ち上がった。
「これ、借りていってもいいかな?」
「いいわよ」
「じゃ、おれ帰るよ」
カバンに本を仕舞い、甲斐君は部屋を出て行ってしまった。
「ほんとうは付き合っているとかじゃないんですか?」
千春の言葉は核心を突いてきた。
優ちゃんは一度、視線を私に向け、そして微笑みながら千春を見た。
「付き合っていませんよ」
微笑んではいるものの、少し投げやりに、そして切なく響いてきたように感じた声だった。