あやとり


もやもやを抱えたまま、二時間半のアルバイトをこなし、帰り道には優ちゃんのアパートへ向かっていた。

優ちゃんはまだ、帰っていなかった。

優ちゃんの携帯電話に電話すると、随分と賑やかな音をBGMに優ちゃんの声がした。

「もしもし?みぃちゃん…?ごめん、よく聞こえないから、一回切るね。かけ直すから」

切れてしまった携帯電話を閉じながら、口を尖らせてみる。
 


〈みぃちゃん〉はやめてって言ったのになぁ。

きっともう癖なんだろうな。

私だってそうなっている。

自分からあんなことを言っておきながら、意識していないと〈優ちゃん〉と呼んでしまっているのだから。

おばあちゃんになってもそう呼び合うのだろうかと思ったら、なんだか笑えた。 

今日は金曜日だから、飲み会とかだろうな。

携帯電話が鳴った。

優ちゃんだ。

出ると、先ほどの五月蝿い音は消えていた。

「さっきはごめんね、今日職場の歓迎会があって」

「歓迎会かぁ。まだ終わりそうにないの?姉さんのアパートの前に居るんだけれど」

「ごめん、今日はわたしの歓迎会だから、先に帰るわけにはいかないの」

「え?優ちゃんの歓迎会?」
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