あやとり

「他人にさ」

「ん?」

「他人に感情的になれるのって、勇気のいることだよね」

「んー」

村井君はまじめな顔で考え込んでいる。

「……なんていうか、感情的になって欲しいときもあるものじゃないかなって、最近ちょっと思った」

さらっとこういうことを口にして、ポケットから携帯電話を取り出し時間を確認した村井君の横顔は、同級生っていうより男の人って印象が強くなる。

由美子と付き合っていた村井君。

十七歳同士の付き合いってどんなものなんだろう……。

直哉と私は……未だにキスもしたことがない。

直哉が初めての交際相手だけれど、直哉にとって私はそうではない。

彼はもう社会人だし、とうの昔にキスぐらい経験済みだろうから、私としていなくても焦りの一つも感じてないのだろう。


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