あやとり

優ちゃんが今みたいな顔をしていたって言うのも、叫んで半べそをかいていたって言うのも嘘みたいだ。

私の知る優ちゃんにそんな顔は存在しない。


校内に放送が鳴る。

「四時より終夜祭を行いますので、校庭へお集まりください」

うちの高校の終夜祭は、男子が女子にフォークダンスの相手を申し込み、同じ相手と最後まで踊るという昔から恒例のものである。

それは学校の生徒だけでなく、一般公開で観に来ている人を誘ってもいいことになっているので、他校の彼女を呼んでいる男子も少なくない。

直哉にも声を掛けてはみたが、ここの卒業生ではないからと、今回は珍しく私の申し出を断られてしまった。

私と踊る姿を見られたらまずいことになるのだろうか。

それなら、校門の前で待ってくれたりしないか。

言葉の裏に隠れた本当の理由を考えるのが癖になっている自分に苦笑いした。

「甲斐君、出るの?」

「見に行こうかなって思ってはいる。今年が最後だし」

「え、最後?」

来年は?


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