あやとり
「親父さ、東京に事務所を構えることになって」
「転校しちゃうんだ?あと一年ちょっとで卒業なのに?」
「ドイツでの仕事を請け負ったんだよ、親父。俺も付いて行っていろいろ勉強したいんだ、建築のこと。行ったりきたりするには東京のが便利だしね」
心臓が変な鼓動の刻み方をし始めた。
「優ちゃんに言ったの?」
甲斐君は急に表情を硬くした。
「俺からちゃんと言いたいから、勝手に言うなよ」
優ちゃんより先に甲斐君のことを知ってしまった。
「なんで、私には教えてくれるの?」
「んー、話の流れかな」
こんなところで優越感を得るのは何故なんだろう。
村井君の声がした。
甲斐君を迎えに来たみたいだ。
この二人の互いを見る目だけで、本当に仲がいいことがわかる。
「男二人で踊ってみるか?」
「ありえねー」
甲斐君は笑いながら席を立つ。