今宵は天使と輪舞曲を。
「なぜです?」
「だって彼女は……」
レディー・ブラフマンは言葉を詰まらせた。とても言いにくそうにしている。
彼女の意見はもっともだ。メレディスほど不似合いな人物はいない。そんなことは自分が一番よく分かっているわ。
「没落貴族だから?」
ラファエルは苛立っているのか、早口で訊ねた。
「いいえ、あの家系は悪い意味で目立ちすぎます」
彼女の言い方はとても控え目だった。けっしてメレディスを悪く言わない。それは母親として息子を大切に思うがゆえだろう。
「ですがぼくはもう決めました」
「ラファエル! 待ちなさい!!」
ラファエルはうんざりした様子で彼女から去る中、思い止まらせるために小走りで彼を追いかけていく。
斯くして、誰もいなくなった広い庭にたったひとり取り残された。
何度目かの静寂が周囲を包み込む。
草陰に身を沈めていたメレディスは動けなかった。
なぜ、彼はわたしを花嫁候補にしたの?
――女性に興味を示さない。
ラファエル・ブラフマンの噂はメレディスも耳にしたことがあるほど有名だ。その彼がなぜメレディスを気に入ったのかが分からなかった。
ゴシップ誌でブラフマン家の名前が乗らない記事なんて未だ見たことがない。中でもグランとラファエル兄弟はハンサムだと持てはやされ、今をときめく紳士のひとりだ。その彼らとメレディスとでは月とすっぽん。