今宵は天使と輪舞曲を。

§ 09***打ちひしがれた心。




 その夜。メレディスにとって過去、希を見ないほどの最悪な一日になった。
 原因は昨夜会話したラファエル・ブラフマンにある。


「君は美しい」
「君はとても魅力的な女性だ」

 彼はメレディスを褒めちぎり、あろうことか口づけまで寄越した。

 情熱的な眼差しも、熱い吐息も――なにもかもがすべて、偽りだった。彼がメレディスに近づいた理由は容姿に惹かれたわけでも性格が気に入ったわけでもない。彼はただ母親に結婚を急がせるのを止めさせるための策略に利用しただけだったのだ。

 ルイス・ピッチャーと同様、彼もまた、メレディスのことをこれっぽっちも愛してなどいない。

 皆から尊敬の眼差しを受けたい一心で天涯孤独な身の上となったメレディスを保護しようと画策するルイス・ピッチャーと、結婚を急かされ続ける母親への意趣返しを企むラファエル・ブラフマン。彼らはまったく同じ部類の人間だ。メレディスの容姿を褒めちぎり、性格も申し分ないとそれらしいことを口にしてはいるが、結局のところ、彼らは本当にそう思っているわけではないのだ。

 それなのに、自分はどうだろう。ラファエルの甘い言葉をまんまと信じ込み、口づけを強請ってしまった。彼とならば幸せな家庭を築けるのではないかとさえも思ったほどに――。


 ――自分が悪い。
 淑女としての教養も何も知らない自分が身の程もわきまえず、ハンサムな伯爵に口説かれ、浮かれていたのだから……。


< 108 / 358 >

この作品をシェア

pagetop