今宵は天使と輪舞曲を。

 冗談ではない。
 そんなのはこっちから願い下げだ!
 いくらハンサムだからといってすべての女性を虜にできると思ったら大間違いよっ!!



 心優しい言葉や仕草。メレディスにかけられたものすべては嘘偽りでしかなかったのだと思えば、悲しみと怒りが一度にメレディスを襲う。

 その日、メレディスの体はいつも以上に重く感じていた。地球上の全重力がまるでメレディスひとりにのし掛かってくるような、そんな重みが彼女を襲う。

 それでもどうにか着替えを済ませ、朝食の用意を終えた。次は調理場の掃除だ。箒を持つ手は力いっぱい握りしめ、今夜の社交パーティーでのことをなるべく考えないよう、必死に努める。しかしどんなに考えないようにしても、ハンサムな彼の姿が脳裏を過ぎる。なにせ彼女がラファエル・ブラフマンと交わした口づけは生まれて初めてのものだった。彼にとってはたとえ偽りであったとしても、メレディスは違う。燃えるような体の熱も、口を塞いだ薄い唇の感触も、すべて本物だった。

 男性特有の太くくぐもった声、分厚い胸板に抱き寄せられた時の力強い腕――。

 彼とのひと時を思い出し、ため息を漏らす唇に空いている方の指先が触れる。



 ああ、ダメダメ!
 わたしってばいつの間にこんな分からず屋になったのかしら。
 彼はわたしを利用するために近づいたのよ。
 彼とはもう会わないし、口も利かないんだから!


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