今宵は天使と輪舞曲を。
「ラファエルはわたしのことを女性としては見ていないわ。彼はきっとわたしをドブネズミか何かだと思っていることでしょう」
だから彼は自分とスキャンダルになることは平気なのだ。
メレディスは大きく頭を振った。自ら口にすれば現実味を帯びて悲しみがさらに肥大する。
悲しみに打ちひしがれるメレディスはもう何も話す気にはなれなかった。助かったことに、キャロラインはメレディスの心情を理解してくれていた。それ以上、何も訊ねてこなかった。繊細で華奢な手は、ただただメレディスの手の甲を撫で続ける。
うなじの後れ毛の部分がちりちりする。目を閉じればその分、ラファエル・ブラフマンを意識してしまう。彼の腕、熱い吐息。分厚い胸板を思い出して喘ぎそうになる。
――それだけ、彼の存在に心囚われはじめている自分がいるのだ。
けれど彼がわたしに近づいた理由は知っている。
母親への意趣返しにメレディスを使おうとしているだけだ。愛なんてものはこの先、彼との間に生まれない。
当然だ。だって自分は美しいとは無縁なほど、薄汚く汚れている。貴族の教養も持っていない、貴族とは名ばかりの存在なのだから……。
メレディスはラファエル・ブラフマンという幻影から逃れるため、大きく頭を振った。
金輪際もう二度と、特に男性には近づかないようにしなきゃ。
なにせわたしに近づいてくる男性はすべて、愛なんてものは存在しない。
利用することこそが目的なのだから!
《打ちひしがれた心・完》