今宵は天使と輪舞曲を。

§ 02***人生とは生まれながらに決まっているもの。




『神の愛はすべての人に及ぶ』

 まだ両親が生きていた幼い頃、教会で牧師からそんな言葉を耳にしたのを記憶している。

 わたしたちはたとえどんな身分にあっても平等だ、なんてよく言ったものだ。メレディスは今までどんな苦境に身をおかれたとしても、牧師の口を借りた神の教えを信じて生きてきた。たとえどんなに不平な世の中であっても、諦めさえしなければいつかは救われる日が来る。幸福になれると僅かな望みを持って生きてきた。
 一四歳で両親を亡くし、父方の親戚に預けられ、使用人のような扱いを受けてもなお、我慢して過ごした。
 それなのに、実際はどうだろう。トスカ家の財産はすべてデボネ家に没収され、両親の唯一の形見だったブローチすらも彼女の手から滑り落ちた。あれから四年も過ぎているのに現状が変わるどころか、以前よりもずっと悪くなっている。

 そこにはけっして平等など有りはしない。人とは生まれながらに神様によって幸か不幸かを決められている。

 そしてメレディス・トスカという人生は間違いなく後者だ。

 本当は神などいないのではないだろうか。牧師も身分の低い者をどうにか救おうとただ口から出任せを言っているにすぎない。

 ――ともすれば、抗うだけ無駄というものではないだろうか。少なくともメレディスはそう理解した。

 ピッチャーは貴族の中で自分の名を上げるためにメレディスを口説き、ラファエルは女性との結婚を拒むためにスキャンダルの火種には格好の相手として選んだ。


< 122 / 358 >

この作品をシェア

pagetop