今宵は天使と輪舞曲を。
社交界では言いなりにならないとラファエル・ブラフマンを罵り、男性としてのプライドを引き裂いた。それなのに、彼はまだ諦めないつもりなのか。そうまでして結婚を拒みたいのだろうか。
「わたしは行かないわ」
ラファエル・ブラフマンにはメレディスと会うことによって多大なメリットはあるだろうが、生憎、自分には何もない。
逆に彼と会うことによってメレディスの中の何かが崩れてしまいそうで――厄介なことになりそうで怖かった。
できることならもう二度と彼とは会いたくなかったし、顔も見たくはない。
メレディスが即座に首を振れば――。
「それはいけません」
エミリアはメレディスを咎めた。
彼女の本心はけっして彼との再会を望んでいない。しかし、ブラフマン家の手紙に書かれている以上、世間体を気にしている彼女がメレディスをないがしろにできるはずがなかった。
「メレディス、わかっているとは思いますが……」
「ええ、叔母さま。ラファエルにも近づきませんから安心して下さい」
「よろしい」
「ああ、お母さま。わたし、夢を見ているようよ!」
母親と同じで贅沢を何よりも好むジョーンは、これまで熱を上げていたフェルディナンド卿がまるで存在していないかのように喜々としているが、ヘルミナは別だった。
彼女の表情は明らかに曇っている。
ヘルミナはおそらく、数日前に社交パーティーでワルツを踊った例の紳士のことを考えているのだろう。