今宵は天使と輪舞曲を。

 それもそうだ。没落した見窄らしい身形の自分なんて誰も相手にしない。ルイス・ピッチャーもラファエルも、皆メレディスの、"両親を失った孤独な没落貴族"としての立場を利用しようと企んでいるだけなのだ。そう思うと、メレディスは悲しくなった。

 やがてメイドは最奥から数えて三つ目の部屋に立ち止まる。

「ミス・トスカ。こちらが貴女の寝室です」

 部屋に通されたメレディスは居心地のよさに驚いた。外観と同じ色で統一された乳白色の壁紙は濃いオレンジ色で四つ葉のクローバーが描かれたカトルフォイルデザインに、バルコニーに続く大きな扉はまるでお伽噺に登場するお姫様になったような気分だ。窓辺に添えられたアイビーは陽の光に反射して輝き、窓から入ってくるそよ風に揺れる淡い緑色のカーテンも美しい。大きなダブルベッドは存在感があるのにもかかわらず、部屋には行き来する十分な広さが用意されている。

「左側はキャロライン様の寝室でございます」

 メイドの言葉に、ようやくメレディスの寝室を手配した犯人が分かった。メレディスの引き結んだ口元が自然と綻ぶ。

「ありがとう。えっと……」
「ベスと申します」
 メレディスはメイドの名を呼ぼうとして言葉を詰まらせたが、ベスは口を開いた。そして続ける。

「ご支度が整いましたらどうぞ一階の広間へお越し下さい。昼食の用意をしております。モーリス様がお待ちしております」


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