今宵は天使と輪舞曲を。
ベスは一礼すると部屋を後にした。
足音は絨毯に掻き消されて聞こえない。
彼女が叔母たちと同じように自分を迎えに来ると言わなかったのは彼らなりの配慮だろうか。
ひょっとすると、これもキャロラインの入れ知恵かもしれない。
なにせ彼女はメレディスと叔母たちとの仲が良くないことを知っている。
キャロラインは彼女たちと行動を共にしないよう、計らってくれたのだろう。
メレディスは靴を脱ぐのも忘れて大きなベッドに倒れ込んだ。
全体重を乗せてもけっして沈まないベッド。美しい模様が描かれた高い天井。何もかもがデボネ家とは違う。目にするものすべてが美しすぎて逆に居心地が悪くなってしまいそうだ。これから約一ヶ月の間、こんなにも豪華な屋敷で暮らす。そのことを考えただけでも目眩を起こしてしまう。
目を閉じてもこの場所に不似合いな自分を想像して悲しくなる。
そうして瞼の裏に現れるのは長身の男性だ。
どこまでも吸い込まれてしまいそうな深い緑の目。角張った輪郭に明るく快活的な性格を思わせる口角が少し上がった薄い唇。彼が瞼の裏に焼き付いて離れない。
あのままラファエルの思惑通りにスキャンダルになったとしても、どうせ二人の関係なんて長くは続かない。
二人の立場の違いを改めて思い知らされれば、胸が締めつけられる。
メレディスは息苦しさに胸を押さえてうずくまった。閉じた瞼が熱を持つ。じんわりと涙が目尻に溜まるのを感じた時だ。ふいに二、三度ドアをノックする音が聞こえて目を開けた。