今宵は天使と輪舞曲を。
ノック音はとても軽やかだったから、ブラフマン家のメイドでもなければデボネ家の人間でもないことが分かった。ベッドの上で身動いでいると、メレディスを急かすようにふたたびドアがノックされる。
「待って、今開けるわ」
メレディスは涙袋に溜まりはじめた涙を乱暴に拭うとドアを開けた。とたんだった。メレディスの名を呼ぶなり、ドアの前で待ち伏せていた彼女は細い腕を首に巻きつけ、抱きついてきたのだ。
小鳥のさえずりのような柔らかな声音と伸ばされた細い腕が誰のものなのかは知っている。
「キャロライン!?」
メレディスは目を瞬かせ、彼女の名を呼んだ。するとキャロラインは首に巻き付けた腕を緩め、不満げに小さな唇をすぼめてみせた。
彼女と、彼女が着ている白地にオレンジ色をしたマリーゴールドの花が散りばめられたドレスもとても可愛らしかった。可憐なキャロラインにぴったりのドレスだ。
「みんな揃ったっていうのに貴女ったらいくら待っても広間に全然来ないんだもの。こっちから来ちゃった。お母さまはこのまま広間で待ちなさい。なんて言うけれどそんなの待ちきれるわけないじゃない!! 貴女、泣いていたの? 大丈夫?」
驚くメレディスを余所に、彼女は首を引っ込めいたずらを思いついた子供のように舌を出した。そうかと思えば、いたずらっ子のような表情はすぐに消え、メレディスの顔を心配そうに見つめてくる。もしかすると泣いていたおかげで目が赤いのかもしれない。