今宵は天使と輪舞曲を。
「……なんでもないのよ、とても寝心地の良いベッドだったから横になったらいつの間にか眠ってしまったみたい。ほんのちょっと悪い夢を見ただけなの。ありがとう、すぐに用意するから広間で待っていて」
キャロラインはくもりのない眼で真っ直ぐこちらを見つめてくる。彼女の目はあまりにも澄んでいる。メレディスは彼女に心を見透かされるような気分がして居心地が悪くなった。だからメレディスは口元に笑みを作り、普段よりもずっと声を明るくした。自分でも明らかに不自然な態度だと思ったが、どうやら彼女は納得してくれたようだ。
「絶対よ?」
メレディスはキャロラインと約束すると支度を済ませ、間もなく一階の広間に顔を出した。――とはいえ、メレディスには着替えるドレスなんてほんの僅かだ。着替える服もまともにないのだから支度なんて必要がない。彼女がすることといえば、悲しみに染まった涙を拭いて顔を洗うくらいだった。
キャロラインには支度が終えたら広間へ向かうと約束した手前、逃げられなくなってしまったメレディスは渋々一階の広間に向かった。
広間へ向かう道すがら、先々ですれ違うメイドたちはメレディスに頭を下げる。けれども彼女たちはメレディスが誰なのかを知っているようだ。好奇のまなざしを向けられていた。まるで道化になったような気分だ。