今宵は天使と輪舞曲を。

 廊下に敷かれている赤いカーペットは靴音さえもかき消せるほど分厚い。美しいデザインが施されたタペストリーにところどころには生き生きとした植物や色とりどりの花が豪華に飾られている。広間に向かう足取りは次第に重々しく、歩幅は小さくなる。逃げ出したい気持ちが膨れ上がる中、ようやく辿り着いた広間の扉の前にはすでに見知った家令が背筋を伸ばして立っていた。


 家令は相変わらずメレディスを視界に入れてもけっしてにこりとも笑わない。一礼すると扉をノックし、中にいる主人たちにメレディスがやって来たことを知らせた。

 ブラフマン家の広間はやはりデボネ家とは比べようもならないほど広かった。巨大な暖炉にちょっとした書籍が置ける本棚。大きい窓には寒々しい冬空であってもたくさん陽が差し込めるように施されていた。

 メレディスがテーブルに着いた頃には食事の用意はすでに整っており、すでに皆が席に着いていた。――とはいっても、そこには二人の息子の姿はなかった。


 そのことについてはヘルミナを除くエミリアとジョーンは明らかに不機嫌になっていて、メレディスが遅れてやって来たことにひどく腹を立てていた。
 ヘルミナはやはり社交界で知り合った男性が忘れられないのだろう。表情を曇らせたまま、俯いていた。

 メレディスの方は、といえば、ラファエル・ブラフマンの姿がないことに少なからずともほっとしていた。


< 135 / 358 >

この作品をシェア

pagetop