今宵は天使と輪舞曲を。
「ラファエルには屋敷を与えております。領地の切り盛りもありますの。滅多なことではこの屋敷には立ち寄りませんわ」
二人の息子は自分たちデボネ家に構っているほど暇を持て余していないといった意味を含んでいることにも気づかない。
エミリアはいかにも残念そうに、「まあ……」とだけ口にした。
それでもエミリアの質問がどれほど場の空気を重くしたのか、彼女は少しも気づいていない。
メレディスはこっそり末娘のキャロラインに目配せした。そうしたのは彼女ならこのおかしな空間を共有できるのではないかと思ったからだ。そして天真爛漫なキャロラインは見事この余所余所しい空間に終止符を打つことも出来るとメレディスは確信していた。
「あの、早速ですがこの後、わたしとお父様とでご一緒に乗馬なんていかが?」
エミリアの落胆する姿を見ていないふりをしているキャロラインは重い空気をはね除けるように声を高らかに提案した。
「わたしも娘も乗馬が大好きなんですよ」
これまでただ黙ってそれぞれの様子を見守っていたモーリスもキャロラインに続いてにこやかに言った。
「いいえ、折角ですが。わたくしたちは着いたばかりで少し疲れておりますので――」
エミリアは眉尻を下げて残念だと首を振ったが、彼女の考えていることは手に取るように分かる。
それはそうだろう。お目当ての息子二人が顔を出さないともなれば、娘たちや彼女自身がわざわざブラフマン家にごまをする必要はない。
「あらそう、残念」と、キャロラインはあっさり言ってのけた。