今宵は天使と輪舞曲を。

 彼らの所有地は道に迷いそうなほど広いので、メレディスははじめ、二人とはぐれないよう慎重に進んでいたのだが、次第に馬に乗ることの楽しさが蘇ってきた。

 手綱を持つ時のぴんと張り詰める空気も、馬から伝わってくる体温も。頬で風を切る感覚が新鮮だった。気がつけば自分の許す限りの速度で馬を走らせていた。

「メレディス、速いわ。この子の足では追いつけないのよ」
「ごめんなさい。馬に乗るのがあまりにも久しぶりで嬉しくて……つい」

 たしかに。キャロラインの馬は小さな体をしている。メレディスが貸してもらった馬とは比較できないほど乗り手のキャロラインと同様に小柄で可愛らしい。せっかく一緒に乗馬をしようと誘ってくれたのに、自分は馬に夢中になっていた。申し訳なく思って謝れば、彼女は頬を膨らませた。怒っているような表情を作っているものの、けれども彼女の目は優しさに溢れている。

「もう、メレディスたったら! 仕方ないわね。だったらこうしましょう。もう少し行った先に憩いの場所として使っている小屋があるの。そこで待ち合わせましょう?」
「わかったわ。ありがとう。先に行っているわね」

 メレディスはモーリスに頭を下げると手綱を持ち、馬に軽く踵を当てると思いきり走らせた。


「キャロライン、お前は何を考えているのかね。この先には湖しかないぞ?」
 メレディスはもう既に遙か遠くにいる。モーリスは得意満面な末娘に訊ねた。

「小屋はないかもしれないけれど、湖は間違いなく彼女の憩いの場になるわ」
 キャロラインは誰に言うでもなく、ひとりごとのようにぽつりとそう呟いた。





《哀愁と愛着と。・完》
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