今宵は天使と輪舞曲を。
交わった舌は痺れるほど心地好く、彼に包まれた時は大きくて力強い存在に守られている気がした。それは自分が無敵であるかのように思えたほどに――。しかしそれはただの思い違いに過ぎない。
メレディスはもう二度と、彼とは口を利かないつもりだったし、会わないつもりでもいた。それこそメレディスにとって一番良い選択だと思ったからだ。
けれども今となってはそれも難しい。なにせメレディスは今道に迷っているし、自分を乗馬に誘ってくれたブラフマン伯爵やキャロラインを心配させているのだから。
おそらく彼は、自分を拒否しておいて気易く話しかけてくるなんて、なんと都合のいい女だろうと思っているに違いない。
メレディスは大きく鼓動する心臓を宥めるため、深く深呼吸すると口内に溜まった唾を飲み込んだ。自ら手綱を引いて馬を誘導させなければならないのに足取り重く、なかなか言うことを聞いてくれない。
それでもゆっくり進む視線の先では、ラファエルが立ち止まる姿が見えた。彼は無表情で、何を考えているのかは、こちら側からは読み取れないが、笑みを浮かべていないことから歓迎されていないのは理解できる。
たしかに、つれない態度を先に示したのはメレディスで彼ではない。けれども、彼だって自分を利用しようとしたのだからおあいこだ。
メレディスは縮こまりそうな胃をどうにか慰めようとそう自分に言って聞かせた。
「道に迷ってしまったのよ」
メレディスは顔をしかめた。