今宵は天使と輪舞曲を。
ようやく二人の距離が縮まったところで歩みを止めると、メレディスは口を開いた。
ラファエルは未だに無表情だが、静かに頷いてみせた。どうやら彼はメレディスが困り果てていることを察したらしい。今のところは紳士として接することを選んでくれたようだ。メレディスはほんの少し肩の力を抜いて話を続ける。
「小屋を探しているのだけれど見つからないの」
途方に暮れてしまった彼女はため息をつき、ぼんやりと湖を見つめた。
「小屋?」
「ええ、キャロラインとブラフマン伯爵に誘われて乗馬をすることにしたの。厩舎から走らせたんだけど、わたし。馬に乗るのが久しぶりできっと羽目を外してしまったのね。我を忘れて二人と落ち合うはずだった小屋を見落としたの」
神経質になっているおかげで早口になってしまう。息継ぎをする間もなく、こうなってしまった経緯を話した。ラファエル・ブラフマンという人物はいつも自分を落ち着きなくさせる。それもこれもハンサムな彼が悪い。
彼の側にただ立っているだけで胸が高鳴り、水中で溺れているかのように思えてくる。そして自分は女性で、この上なく力がない生き物だと思い知らされてしまう。
すっかり居心地が悪くなったメレディスは彼の顔を覗き込み、ラファエルの様子を窺った。彼は眉間に皺を寄せ、何かを考えているようだ。暫く無言ののち、いったい何を理解したのかはわからないが、彼は大きく頷いた。
そして彼は長時間さ迷い続けた馬を休ませるため、湖の畔に腰を下ろすようメレディスに促した。