今宵は天使と輪舞曲を。
「この馬はいい馬ね。わたしにも馬がいたの。十歳の時に父がプレゼントしてくれたわ」
沈黙が続くのはあまりにも居心地が悪い。メレディスは頭に浮かんだ言葉をそのまま口に滑らせた。
メレディスに付き合い、延々と走らされていた馬は今、木陰の中で草を食み、優雅にくつろいでいた。
そういえば、クイーンも草陰が好きだった。木陰に腰を下ろし、彼女の気が済むまでこうやって草の上に座っていたのをおぼえている。
気がつけばメレディスは落ち着きを取り戻し、口元には笑みを浮かべていた。
「その馬はどうしたんだい?」
ラファエルが訊ねた。
「半年前、叔母に……。わかるでしょう? デボネ家の家計は火の車なのよ」
メレディスは肩を竦め、大きなため息をついた。
ふたたび沈黙が辺りを包み込む。だからこの話は終わり。てっきりそう思っていた。けれどもどうだろう。ラファエルは姿勢を変えてこちらに身を乗り出した。そうかと思えばふたたび口を開いた。
「君の馬はどんなだったんだい?」
どこまでも澄みきった緑色の目がメレディスを真っ直ぐ捕らえる。
いったいラファエルは何を考えているの?
彼はまだわたしを利用できると思っているのかしら?
メレディスは彼の瞳を覗き込む。しかし当然のことながらいったい彼が何を考えているのかは分からない。
彼はなぜこんなに真剣な目をこちらに寄越してくるのだろうか。
「全身ミルク色で、黒くて大きい、優しいつぶらな目をしていたわ」