今宵は天使と輪舞曲を。
ラファエルの紳士な眼差しにメレディスは心が乱れた。気持ちを落ち着かせようと瞬きを繰り返す。それから視線をラファエルから湖へと変えて動揺を隠すことに努めた。彼はおそらく失った愛馬への哀愁に浸っていると思ったのかもしれない。目の前にいるハンサムなラファエル・ブラフマンのおかげでメレディスの感情が高ぶっていることを知らない彼は体勢を変えなかった。
「ところで君はいつもグローブを身につけているのかい?」
さらに彼は問いかけてくる。
「いいえ、でも。わたしはグローブが気に入っているの」
訝しげに訊ねるラファエルに、メレディスは自分のグローブに視線を落とした。薄いがしっかりと包み込んでいる白地のグローブはメレディスには無くてはならないものになっている。とりわけ、自分よりもずっと身分の高い男性の側にいる時は――。
だってぱっくりと皮膚が裂けている手は今もほんの少しの刺激で赤い血液が流れ出す。汚らしい血で汚れた手を見られるのはあまりにも惨めだ。いくら没落した貴族に成り果てていることを世間に知られているとしても、傷の手当てができないほど経済がひっ迫しているなんて知られたくない。
メレディスは、自分が薄汚れた存在だという証しをラファエルに見せることが耐えられなかった。
没落貴族の自分は本来ならばラファエルやキャロラインと同じ空間にいることすら許されない。そう思えば胸が締めつけられる。悲しみで瞼が熱くなってくる。