今宵は天使と輪舞曲を。
俯いてグローブを見つめ続けていると、彼の手が伸びてきた。そうかと思えば息をつく暇もない早さで片方のグローブがメレディスの手からするりと抜けた。
メレディスははじめ、自分の身に何が起きているのかが分からなかった。それはほんの数秒のことだったのかもしれないし、もう少し長い時間だったのかもしれない。
メレディスはやっとのことで自分の右手が空気に晒されている事実に気がついた。やはりともいうべきか、手は手綱を持っていたことでほんの少し出血している。
指先の裂け目から鮮血が滲んでいる。その手は干からびた老婆のようだとメレディスはあらためて思った。
こんな汚ならしい老婆のようなわたしでは男性は誰も相手にしない。
そう思えば思うほどに自分が惨めでたまらなくなる。
「お願い、返して!」
悲鳴にも似た声でグローブを返してもらおうとラファエルに手を伸ばす。
けれども彼は意地悪だ。メレディスからさらにグローブを遠ざけた。返す素振りさえない。
ラファエルに薄汚れた手を見られてしまった。きっと彼は自分を軽蔑するだろう。
すっかり取り乱しているメレディスは押し寄せてくる絶望と悲しみにすすり泣いた。
「お願い、返して……」
しゃくりを上げながらラファエルに抗議するメレディスは、きっと罵られるだろうと思っていた。こんな汚い人間とは一緒にいたくもないとうんざりされると……。けれど彼は、すっかり縮こまってしまった彼女の肩を引き寄せると、その腕に閉じ込めた。