今宵は天使と輪舞曲を。
力強い彼の腕が悲しみに震えるメレディスを包み込む。
「君は働き過ぎだ」
ラファエルは一拍置いてから続けた。
「だけど今日の君はついてるね。君にいい物を持っているんだ」
彼はポケットから小瓶を取りだした。
「釣りに出る時は持ち歩いていてね」
メレディスはすっかり力強い腕に包まれているから表情はまるで分からないが、うなじに小刻みに揺れる彼の吐息を感じた。まるで泣きじゃくる幼子をあやすようだ。甘い吐息がくすぐったい。
彼の表情も見て見たいとメレディスは思った。きっととても優しい微笑を浮かべているだろう。
「馬油だ。少しは痛みも消えるだろう」
メレディスとラファエルの距離がほんの少し離れる。
彼は手にしている小瓶の中身がけっしておかしなものではないとメレディスに説明しながら瓶から取り出した馬油を自分の手に取ると、骨張った長い指がメレディスの傷ついた指先に塗っていく……。
馬油はとても貴重で高価なものだ。
てっきり、この薄汚れた手を見て、彼はうんざりするのかと思った。
やはりメレディスは自分とは不似合いなのだと彼女を罵り、去って行くのだと思った。それなのに、彼は彼女の元を去るどころか大切な馬油さえもメレディスに差し出した。
「さあ、もう片方の手も見せてくれ。傷の手当てをしよう」
あまりにもしっとりとした声音で言われたものだから、メレディスはすっかり毒気を抜かれてしまう。グローブを嵌めているもうひとつの手も素直に差し出した。