今宵は天使と輪舞曲を。
ラファエルは、身に覚えのないブローチことで彼女に詰られ、突き放された。自尊心を傷つけられた彼は怒りをおぼえたと同時に悲しくもなった。
「違うわ! メレディスはお兄さまに利用されたと思っているのよ」
「どういう意味だ」
「ラファエルはお母さまにしたくもない花嫁選びを迫られ、母親の見せしめにわざと没落貴族であるメレディスを誘惑して止めさせようと策略していると思ったの」
なんだって?
予想さえもしていなかったキャロラインの言葉にラファエルは驚き、両目を大きく見開いた。
それから次第に眉間に皺が寄っていく。
「ぼくはそんな人間じゃない」
たかが母親の意趣返しのためだけに想ってもいない相手を誘惑していると思われているなんて実に不愉快だ。
それは自分でもよく分かるほどにラファエルの眉間には深い皺が三本ほど刻まれていた。
「ええそうね」
キャロラインは兄の手を叩き、慰める。
「でもメレディスは知らないわ。ねぇ、お兄さまだって気づいているでしょう? メレディスはお兄さまが好きなの。彼女の身の置き場所を考えてもみてよ。親戚に虐げられ生きてきたことで臆病になっているの」
「そして彼女は自分がいかに美しい存在なのかを知らない」
キャロラインはラファエルに頷いて話を続けた。
「お兄さまとメレディスは想い合っているわ……」
「そんなことはない」
「そうかしら? わたしが駆けつけた時は察するに、わたしがよく読む小説に登場するヒロインとヒーローのような眼差しだった気がするんだけれど?」
「お前といると頭がどうにかなりそうだ」
「あら、わたしだってそうよ」