今宵は天使と輪舞曲を。
ラファエルといるとお猿さんと会話しているように思えてくる。だけどお猿さんの方がまだ理解力はあるわね、とキャロラインは思い直した。
一向に折れる気配のない妹は恐ろしく強情だ。ラファエルは小さくため息をつくと話題を変えることにした。
「彼女の両手はあかぎれが酷い」ラファエルが言うと、「だって、デボネ家では召使いの仕打ちを受けているわ」何を今さら、とでも言うように彼女は言葉を返した。
ラファエルは、妹とメレディスについて話していると、いつまでもへそを曲げている不寛容な男だと言われているように思えた。
実際、彼女の身に起きていることは本来ならばあってはならない出来事である。貴族でありながら同じ身分の、しかも本来保護されるべき血の繋がった相手に虐げられて生きている。
しかしラファエルは違う。幸運にも家族や親戚筋、金銭面でも裕福に育った。彼には到底考えられないことだ。そうなると自分が駄々をこねる子供のように思えてくる。ラファエルは眉間に皺を寄せ、ポケットの中を探った。
「これを渡してほしい」
ラファエルの行動を咎める妹を余所に、彼はメレディスに塗ってやった馬油が入った小瓶を差し出した。
「いやよ!」
妹は大きく頭を振って拒絶する。
「兄さんが渡せばいいことだわ」
「ぼくは屋敷には戻れない」
それは仕方なく招く羽目になったデボネ家の住人が揃い踏みしているからだ。おそらくは父親が彼女たちを屋敷に呼んだのもキャロラインの仕業だろうことは察しが付いている。
――ぼくとメレディスをくっつけたがっているから。