今宵は天使と輪舞曲を。

「ヘルミナ、喜びなさい。わたくしたちはブラフマン家に招待されたわよ!」

 頬を高揚させて喜ぶエミリアに呼ばれたヘルミナはやがて広間にやって来た。

 彼女は複雑そうな面持ちで母親と姉を交互に見ていた。

 可哀相に彼女は華やかな場所よりも屋敷に残り、食べ物を口に運び続ける方が好きだったのだ。それを分かろうとしないエミリアは満面の笑みをヘルミナに向けている。

「ブラフマン家って……あのブラフマン家?」
「他にどなたがいると思っているんです」

 当然でしょうと言ってのけるエミリアの視線を、ヘルミナは逸らした。

 ブラフマン家は貴族の中でも有数の伯爵家だ。

 彼らは八代にわたって繁栄を築き上げ、今もなお事業の拡大を図っていた。

 けれどもそれだけではない。エミリアたちが目を輝かせる理由は他にもあった。

 ブラフマン伯爵家には結婚適齢期を迎えた男性がふたりもおり、どちらもとびきりハンサムで有名だったからだ。年頃の娘たちは皆、彼らの妻の座を虎視眈々(こしたんたん)と狙い続けていた。そしてそれはエミリアやジョーン、ヘルミナにとってもそうだった。

 ――とはいえ、ヘルミナは分をわきまえている。彼女は自分が彼らに相応しくない事を知っていた。
 しかし彼女の母親エミリアはそれを良しとはしなかった。なんとしても自分の野望を遂行したがっていたのだ。


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