今宵は天使と輪舞曲を。

 メレディスはよろめきながら立ち上がり、ドアを開けた。そんな彼女の目の前にはトレイを持ったベスが立っていた。彼女は相変わらずメレディスににこりとも笑みを漏らさない。与えられる仕事を全うしているように思える。

「スープとパンをお持ちしました。奥様が何も口にしないのはよくないとおっしゃられましたので」
 彼女はそう言うと慣れた手つきでナイトテーブルの上にトレイに乗せていた平皿と、こんがりと焼けているパンがいくつも入ったバスケット。それからグラスを置いた。食べやすいように小さく切ってある野菜スープはほんのり湯気が上がっている。出来たてなのはひと目で分かった。


 ベスが無言のまま水差しを傾け、彼女の手によってグラスに水を注がれていく。グラスに水が溜まっていく様を見続けるメレディスの視線は虚ろだ。沈黙が続く二人の間に会話は存在しない。

 レディー・ブラフマンはまさか自分とラファエルが昼間に会い、口づけを交わしているとは思いもしていないだろう。もし予測していたならば、いくら主人であるからといって彼女がこのようにメレディスの体を気遣うわけがないのだから。

 なぜならレディー・ブラフマンがラファエルの結婚相手に望む女性はけっしてメレディスではないからだ。頭が良くて教養があり、留主にしている夫に代わり、家をしっかり守れる女性。まさにメレディスとは正反対の女性を理想としている。

 どうやら自分が思っていた以上に長い間考えていたようだ。


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