今宵は天使と輪舞曲を。
ドアが閉まる音にはっとしてメレディスが顔を上げると、もうそこにはベスはおらず、またひとりになっていた。
ブラフマン家では当然のことながら、食事の準備も掃除もメレディスが担当しなくていい。そのことがメレディスをどこか不安にさせる。
この屋敷にやって来たとしても教養も器量もない彼女にとって、今は何もできることがない。貴族の女性として、持つべきものは何もないのだ。自分に誇れるものが何もないと思い知らされれば虚しくなる。
メレディスは唇を噛みしめ、何もない自分を恥じ、責めた。
心が重くのしかかる。
せっかくメレディスを思い、食事の用意をしてくれた彼女たちには悪いとは思うが、スプーンを持つ気にもならない。
そんな中、遠くの方で今夜二度目になるノック音が聞こえた気がした。ふと顔を上げれば、目の前には心配そうにしているアンバーの瞳があった。
「返事がなかったから、無断で入ってごめんなさい」
キャロラインはそう言うと、ベッドに座っているメレディスの隣に腰を下ろした。
「ラファエルは本当に貴女を利用しようとしていると思う?」
彼女はメレディスが何に戸惑いを感じているのかを理解しているようだ。どこか元気のないメレディスにそっと訊ねる。
キャロラインの言葉をメレディスは頭の中で反芻した。
そうだ。初めはそう思っていた。
ラファエルが自分を誘惑するのは未来の花嫁探しをする母親から逃げるためだと思った。
けれど本当にそうかしら?