今宵は天使と輪舞曲を。
§ 08*** もっとも退屈な女性。
相変わらず広間は華やかで整っている。足音が響かない分厚い絨毯に六人掛けの長い食卓。その上には豪華な花瓶に生けられている赤い薔薇の数々。それに用意された六人分の食事。スープはあたたかな湯気を立たたせ、パンは香ばしい匂いを漂わせている。けれどもメレディスは翌朝になってもお腹が空かなかった。
理由は簡単だ。メレディスの心をすべて彼、ラファエル・ブラフマンが占めていたからだ。彼の腕の力強さ、笑い声。どこをどうやってもメレディスの思考は彼へ傾いてしまうのだ。
それだけならまだしも、叔母や従姉妹にはもう二度と彼とは口を利かないと約束を果たした。それなのに、昨日は彼と口を利いたどころか口づけまで交わしてしまった。罪悪感と息苦しさがメレディスを追い込んでいく。
メレディスは憂鬱な気分のまま食卓に着いた。頭痛はひどいし、胃がむかむかする。叔母たちが突き刺すような視線を寄越してくるのはいつものこと。だから彼女たちはけっして約束を破ったことで貶めてくるのではない。メレディスは必死になって自分にそう言い聞かせ続けた。そうやって過ごしているから、おかげでブラフマン伯爵や夫人たちの会話のことごとくが頭に入ってこない。それでもかろうじてブラフマン夫妻とキャロラインの会話の一部分はなんとか耳に入れることができた。
どうやらキャロラインは今日、領地や領民の巡回をするため屋敷にいられないそうだ。領主として、領民への慈善活動を施すのはいたって当然の義務だ。彼女は若くして夫人からその仕事を担っていた。