今宵は天使と輪舞曲を。
本当は、キャロラインと一緒に行ってみたかった。だってこの屋敷に居てもけっして心が休まることはないから。けれどもメレディスは彼女と対等な立場ではない。だから巡回に同行したいとは言えなかった。
メレディスは自分が恥ずかしくてたまらなかった。一六の歳でキャロラインはすでに領主として勤めを果たしている。それなのに自分ときたらどうだろう。両親を亡くし、没落貴族になったからという理由であっさりと領地や領民を手放し、本来自分がしなければならない勤めを放棄した。キャロラインと自分の立場がいかに不釣り合いなのかがよく分かる。
食事を終え、自室に戻ったメレディスの心は、今朝目を覚ました時よりもいっそう心が重く感じていた。そして今日という長い一日をどう過ごせばいいものかと頭を悩ませてもいた。それというのも、メレディスは貴族の嗜みをまったく知らない。なにせこれがデボネ家であれば、屋敷中を行ったり来たりを繰り返し、使用人として掃除や洗濯などの雑務をこなすばかりで、自分の時間というものが存在しない。しかし、今は客人としてブラフマン家に滞在を余儀なくされている。物心がついた頃から使用人のような生活を虐げられているメレディスにとって、唯一の存在価値でもあった雑務を失った。時間を与えられれば与えられるだけ、自分がどれほど面白味のない退屈な人間なのかを思い知らされる。暇を持て余すこの時間は、もはや彼女にとって苦痛でしかないのだ。