今宵は天使と輪舞曲を。

 それでもメレディスの胸は痛んだ。
「ベス、やっぱりこのドレスは上等すぎるわ。朝食の時に着ていたドレスで十分よ」
 キャロラインには悪いがどうやっても自分には不釣り合いだ。メレディスは控え目にシルクのドレスを着る権利は自分にはないと世話を焼くメイドに話しかけた。

「いいえ、メレディス様」
 相変わらず手を休めないベスは、けれども大きく頭を振った。

 キャロラインもベスにしても、彼女たちは自分に気を掛けすぎている。衣服を着るくらいなら一人でできるし、このような上等なドレスを着る身分でもない。見る限り不健康だと分かる体は骨と皮だけでできていて、女性特有の丸みがない。食事だってままならないぶん、栄養が行き届いていないのだ。髪だってそうだ。ぱさついて梳かす意味なんてない。それなのに、彼女は丁寧にブラシで梳かしてくれる。申し訳なく思いながら鏡に写る幽霊のような精気のない顔色をした自分ときびきび働くメイドを見比べた。キャロラインが用意してくれたこのドレスは彼女こそ映えるのではないかと、メレディスは思った。あまりにも容姿が醜い自分の姿なんて見たくはない。メレディスの視線は下がり、膝の上に固定してしまう。

 そんなメレディスを余所に、ベスは口を開いた。

「馬油を塗って艶を出しましょう。頬と唇には紅をつけて。ほら、ずっと綺麗になりましたよ」


 彼女の言葉には感謝はするが慰めの言葉を貰っても結果は変わらない。メレディスは渋々顔を上げ、鏡に写る自分の姿を見た。その瞬間、自分の目を疑った。


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