今宵は天使と輪舞曲を。
　鏡に写った姿があまりにも想像していた自分とは大きくかけ離れていたからだ。

　本当にこれはわたしかしら？
　メレディスははっと息をのんだ。


　ベスの手は魔法のようだ。ついさっきまで疲労感が滲み出ていた精気のない青白い顔は纏った紅のおかげで姿を無くし、左右に流れた髪は、ゆったりと後ろ手に編まれている。胸元が開いた青のドレスがメレディスのグレー色の目を藍色へと変えていた。

「とてもお綺麗です」
　左右の髪を少し持ち上げ、メレディスの身だしなみを整えたベスは続けた。
「食欲がないようでしたら食べやすいサンドイッチなんていかがでしょう？」
　鏡越しに写り込むベスは笑顔をメレディスに向けていた。

「あの。でも、わたしのわがままで料理を変更するのはご迷惑ではない？」
　メレディスはやっぱり鏡に写った自分が信じられなくて、目を瞬かせながら口を開いた。
　たしかに自分は今、ブラフマン家の客人ではあるがふたを開けてみればただの落ちぶれた貴族。それにこの屋敷はとても広い。彼女たちはもちろん、コックだって一日の献立を考えるのに大忙しだ。メレディスひとりのわがままが通って良いわけがない。　たったひとりのために別の料理を新たに作ってもらうのは気が引ける。

「いいえ。実はキャロラインさまの昼食をコックが作り過ぎてしまいまして、どうしたものかと困っていたのです。メレディスさまさえよろしければそちらをお持ちしてよろしいですか？」


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