今宵は天使と輪舞曲を。
だってブラフマン家の人間は探求心に溢れている。彼らの事業はこれからも発展するに違いない。だったら家計を切り詰める必要もないし家事だってメレディスが手を下さなくとも雇ったメイドたちがいる。ラファエルにとってメレディスの得意分野は不要の長物にすぎない。そんな趣味さえもないつまらない自分がすべてにおいて完璧なラファエルに好かれるはずなんてあるはずがないのだ。
彼は自分を利用するために近づいただけ。彼からの口づけはメレディスが男性を知らないことを見越し、心を奪うための策略だ。そうして二度にもわたる甘い口づけにのぼせ上がらせようとしたのだ。そして自分はラファエルが計画したとおり、見事彼の術中に嵌った。思考は常に彼に傾いている。
ラファエルを求めているのは自分だけ。そう思い知ればさらに胸の痛みが増す。
メレディス自らが導き出した答えが胸を突き刺す。ずきずきと痛みを訴える胸にそっと手を当てると、昨夜キャロラインと交わした言葉が頭の中で響いた。ラファエルは本当に自分自身の利己的な考えのために誰かを利用する人間なのか。キャロラインはそう問うてきた。
たしかに、彼女の言うとおりだ。まだここへ来て日も浅いが、ラファエルも兄のグランも、ブラフマン家の男性は自律しているように思える。
ならばなおのこと、彼らは誰かを利用して自分を誇示するなどという考えを嫌うのではないか。そう思えるのは、ブラフマン家の男子は現在の状況に満足しておらず、さらに事業を拡大しようという野心を持っているからだ。