今宵は天使と輪舞曲を。

 現にこうしてほんの少しでもラファエルのことを考えただけで速いリズムで心臓が脈打ち、熱をもつ。体が独りでに反応してしまう。それに昨日だって簡単にキスを受け入れてしまったではないか。


 ああ、彼を拒むなんてできない。わたしはいったいどうすればいいの?


「ここが気に入ったのかい?」


 それは唐突だった。
 背後から声をかけられ、メレディスはびっくりして声を上げた。
 物思いに耽っていたから余計に大袈裟な驚き具合になってしまったわけだが、けれどもまさか彼女が今考えていた本人がやって来るとは思いもしなかったのだ。

 振り向けば、長身のラファエル・ブラフマンがいた。さしずめ大袈裟な反応をみせたメレディスに驚いているといったところだろうか、メレディスを魅了して止まないエメラルドの澄んだ目が大きく見開かれていた。


「驚かせてすまない」

 耳障りのよい低音がメレディスの耳孔をくすぐる。

 ああ、やっぱり彼はハンサムだわ。
 メレディスは彼に見惚れた。あまりにも心臓が脈打ちはじめたから両手で胸元を押さえようとした時、はっとした。

 ここへ来た当初にベスから手渡されたバスケットがない。バスケットの中にはコックが作ってくれたサンドイッチが入っていたのに――。

 見下ろせば、どこからか吹くそよ風でわずかに揺れる水面に沈んでいる。どうやら驚いた拍子にバスケットごと真っ逆様に転がり落ちてしまったらしい。

「まあ、どうしましょう」


< 173 / 353 >

この作品をシェア

pagetop