今宵は天使と輪舞曲を。
メレディスの足下よりもほんの少し先に浮いているバスケットを見つめながら、彼女はぽつりと呟いた。
「すまない、ぼくが急に話しかけてしまったからだね。君さえよければぼくの分を半分どうだい? 丁度今から食事をしようと思っていたところなんだ」
ラファエルはメレディスが持参していたバスケットの中身が何であるかを察したらしい。彼は手にしているバスケットを掲げて提案した。
メレディスは直ぐさま首を振った。
「貴方の分が減ってしまうわ」
ラファエルは仕事をしているが、ブラフマン家に招待されてからメレディスは何もしていない。栄養が必要なのは彼であってメレディスではないのだ。
「わたしは、お腹が空いていないもの」
実際、食事はデボネ家では殆どしていない。だからよほどのことがな限りお腹は空かないようになってしまったのだ。
けれどもいったいどうしたことだろう。彼女がラファエルの申し出を断った瞬間、常に無反応なはずの彼女のお腹が抗議をしたではないか。
メレディスは顔から火が出るのではないかと思った。彼には聞こえていませんようにと祈りながらそっと顔を上げれば、その願いは神様には届かなかった。
ラファエルは込み上げてくる笑いを堪えているようだ。拳で口元を隠しながら肩を振るわせている。恥ずかしくて居たたまれないメレディスだが、クツクツと笑うその声音も心地好い。
彼が笑っている姿をもっと見ていたい。