今宵は天使と輪舞曲を。
ラファエルの笑い声を聞いていたいとは思うものの、この状況を作り出したのは他でもないメレディス本人なのだ。彼女は顔を膨らませ、そっぽを向いた。
「お願いだ、セニョリータ。ぼくと食事をしてほしい。話し相手がいなくて寂しく思っていたところだったんだ」
気が済んだらしい彼はすっかり元の表情に戻っていた。
大袈裟な科白だ。メレディスは彼に話し相手がいないなんて絶対に嘘だと思った。彼はハンサムでユーモアだってある。彼に話しかけられたがっている女性はごまんといる。ともすれば、理由はひとつ。メレディスでは他の貴婦人ほど気取った会話をしなくてもいいと考えたのかもしれない。
それはそうだろう。自分は貴族とは名ばかりの没落した身。教養も知識もない。だからわざわざ言葉を選ばずともいい。
「いいわ」
メレディスの頷きに彼はにっこり微笑み返すと、上着を脱いで地面に広げてみせた。
ラファエルの行動が分からない。メレディスは顔を顰め、彼の真意を探った。だって彼のこの所作は男性が貴族の女性にするものと同じだった。これはメレディスにとってあまりにも予想外だ。
躊躇っているメレディスに、彼は微笑を浮かべたまま彼女に座るよう手で示した。
メレディスは狼狽えた。だってメレディスはこれまで男性から女性として見られた試しがなかった。
――いや、ピッチャー男爵からは淑女への礼節を幾度か受けたことはある。けれども彼とラファエルの所作は明らかに違っていた。