今宵は天使と輪舞曲を。
何より、ピッチャー男爵の視線は鋭く冷ややかで、まるで獲物を狙う獣そのものでメレディスに安心なんていうものを与えてくれるはずはなかった。
それに比べてラファエルはどうだろう。彼は優しい眼差しで女性を見つめるだけでなく、こうして腰を下げ、彼よりもずっと背が低いメレディスと視線を合わせてくれる。
ラファエルはたしかに優しい。女性を尊重してくれるし、伯爵という地位にいる自分を鼻に掛けることもない。
けれども自分は彼よりもずっと身分が低い。
ただでさえ器量が悪い上に毎日が家事で追われているおかげで指先はひび割れ、あかぎれを起こしてまるで老婆のようだ。
彼は昨日、メレディスの素手を目視したから確認済みだ。だからこそ、気取る必要は無いと判断し、メレディスを昼食の話し相手に決めたのではないのか。
ならばやはり、ラファエルは母親からの花嫁選びから逃げるために自分を利用しようとしているのだろうか。
「あの、わたし。別にいいのよ。こういうことは。地面には座り慣れているの。だから、その、つまり。貴方が大切に思っている女性にしてあげればいいと思うの」
言ってから、果たして彼が心から敬愛する女性はどんな人だろうと考えたあたりで胸が痛くなった。
けれどもその女性とラファエルが過ごしているのを誰が咎められるというのだろう。メレディスは過ぎった感情にふたをしてどうにか意識を逸らす。
「それならこれで合っていると思うよ」
彼の方へ視線を向けると、またもやにっこり微笑まれてしまった。