今宵は天使と輪舞曲を。
幼いながらに手綱を持ち、頭を上下に大きく揺らすクイーンに大丈夫だと必死に声を掛けたのを思い出す。メレディスは過去の記憶にうっとりと目を細め、思い出に耽った。
「君は人間だけでなく馬も宥めるのも上手いんだね」
ラファエルは肩を窄めておどけて見せた。
「そんなことはないわ。あの時は必死だったから――。それにわたしは器量も悪いわ。他人の神経を逆撫でることはできても宥めることなんてできないのよ」
「いいや、そうとも限らないよ。実際君はこうしてぼくのそばにいて宥めている」
ラファエルが何を意図してそう言ったのか。メレディスはそれを理解するのに差ほど時間はかからなかった。
それはラファエルと会話するようになって三度目の社交パーティーの時のことだ。
あの日は散々だった。叔母や従姉に隠していた両親の形見であるブローチを見つけられ、売られてしまったのだ。
そして、追い打ちをかけるようにして耳にした彼の母親レニアとラファエルの会話。自分を利用するのは何も親戚だけではい。誰も彼も、皆がそうなのだと思えば、自分はいったい何のために生まれ、生きているのかと絶望してしまった。
しかし今思い返せば彼への発言はただの八つ当たりでしかない。たしかめもしないのに自分の思い込みが事実だと勝手に腹を立て、独りよがりに陥って落ち込んでいただけなのだ。
「あの時はごめんなさい。わたし、両親の大切なブローチを叔母たちに売られてしまって……。気が動転していたの」