今宵は天使と輪舞曲を。
§ 10***キャロラインとメレディス
まさか一度ならず二度までもラファエルと口づけを交わしたなんて……。
ブラフマン邸に帰宅してからいったい何度目のため息になるだろう。戻って来るなりベッドに腰を下ろしたメレディスは手の中にすっぽりと治まっている小瓶をぼんやり見下ろしていた。
この小瓶には馬油が入っている。ラファエルから手渡されたものだった。
今日、湖でふたたび再会したラファエルと長い口づけを何度も繰り返した後、彼はまたもやメレディスの手からグローブを抜き取ると、昨日のように馬油が入ったこの小さな瓶を取り出したのだ。
メレディスの手はほんの少し、指先を動かしただけでも簡単に出血してしまうほど穢らわしい。――にもかかわらず、赤い血が染まった彼女の手を見ても、彼は顔色ひとつ変えず、メレディスの手を労るように包み込み、一度ならず二度までも馬油を塗った。
誰しもが羨むハンサムな彼と愛馬だったクイーンの話ができるなんて信じられない気持ちでいっぱいだ。
会話だけではない。幾度となく口づけを交わし、貪り合った。彼の肌のぬくもりも、腕の力強さも忘れられないほどメレディスの体にも思考にも記憶されている。
すっかり日が暮れている。もうすぐ夕食の時間だ。けれども昨夜と同じようにお腹は空いていない。しかし、今夜は昨夜の憂鬱だった気分とは打って変わり、心が浮き足立っていた。
心は満たされ、胸がいっぱいで何も口に入れられそうにない。